私が日本の食文化の危機に目覚めたのは一人の農業従事者との出会いからでした。
2009年に福岡県遠賀町のブランド品開発を目的とした商品開発として、農商工連携事業としてお米の粉を使った加工食品はできないかと思い、「べいめん」の開発に取り組み始めました。
減り続けるお米の消費をなんとか拡大できないのか?という思いから、どうせ作るなら美味しいものを作りたい。料理人として美味しさは妥協できない。と強く思い、これまでの経験が活かせる麺を米で作ることを決意しました。
毎日食べても飽きが来ず、お米本来の美味しさが残る麺。私は親しみを込めて「べいめん」と名付け、日々試行錯誤を繰り返し悪戦苦闘を繰り返していました。特に原材料の米にはこだわりたいと思っていた折、紹介されたのが石松さんでした。
遠賀町上別府で米農家五代目、米作り一筋の石松守(いしまつまもる)さん 75才。
初めてお会いした時の第一印象は今でも忘れられません。
一見とっつきにくそうで、無口、頑固そうな印象、鋭い眼光、日々の農作業で鍛えた骨太で、体全体から近寄りがたいオーラを放っていまいした。
私は奮い立って、米粉だけで作る麺作りの思いと現況の問題を相談しにいきました。
石松さんは私の情熱を感じ取ってくださったのか、単なるお米を提供していただくという関係を超えた、お付き合いをさせていただけるようになりました。
付き合いが深まるにつれ、石松さんから現在の米農家の抱える問題や苦労をいろいろと教えていただき、日本の食文化が私の認識以上に危機であることを痛感し、なんとかこの「べいめん」を通じて、いつまでも安心して米を作れる環境づくりのお手伝いができないかと、より一層情熱が湧いてきました。
農家を救うことは、田んぼを救うこと、田んぼを救うことは日本を救うこと、日本の故郷を守ることに繋がります
当店「遠賀べいめん糀(こめのはな)」のある福岡県遠賀町は、これと言った特徴もなく、福岡市や北九州市のベッドタウンとして、観光地も旧所名跡もない普通の街です。
主な産業は農業。主な作物は米・麦・大豆。日本で一番多いタイプの普通の農がの多い地域です。
都会の人が農業と聞いて想像するような、きれいな水がある里山の風景はなく、ごく普通の日本によくある農業地帯です。
しかし、このありふれた地での米作りの現況が、日本国内の農業を象徴する現状なのです。
戦後の食糧不足の時から国は農家に米作りを奨励し、生産を促進してきました。
しかし、最近では、『米』に対する悪いイメージ(糖分が高いとか、炊くのが面倒など…)が消費者に広がり、戦後米の消費量は年間1人当たり118㎏だったのに対して、平成29年には54㎏に激減しました。その上技術革新により生産量が増えたため、需要と供給のバランスが崩れてしまいました。
しかも、日本には米が余っているにも関わらず、諸外国からの軋轢もあり、輸入も行い、完全に供給過多の状態となってしまいました。物価指数を考慮に入れると昭和62年の最高値の時から米価の変化率はマイナス300%。
なんと、500g100円を下回っているお米もあります。
これは自動販売機で売っているミネラルウォーター1本(500cc)の価格よりも安いのです。
1年間愛情をかけ育てた米がこんなに安く売られているのに、それでも米は消費されず、海外からは米や小麦といった主食となるものを輸入しているのです。
これまでは国からのバックアップも手厚くありましたが、今はそれも削減され、米農家の収入は減る一方です。「米作って、飯食えぬ!」というのが日本の米農家の現状なのです。
さらに農業従事者の高齢化が進んでいます。
『飯食えぬ仕事』では、農家を継承する若者達もやろうという気にはなりません。働き手はどんどん年を取り、農業従事者が減っていくと、やがて米が作られなくなるのではないかと危惧されています。
日本の多くの米農家は、重労働にもかかわらず米作りに励んできましたが、
ごはん離れと外食産業の繁栄、食のファーストフード化の波に飲み込まれ減少の一途をたどっています。
確かに販売努力やブランド作りに力を入れてこなかった農家にも問題があると思うのですが、戦後からの米作りの背景をみるとなかなか難しいものがあり、『魚沼のこしひかり』とか『北海道のゆめぴりか』とか特別なものは別として、とにかく「作れ!作れ!」ということで、まじめにコツコツと作ってきた米農家は、今後どう生き残っていくのか本当に急務な問題なのです。
田んほ“はすごいぞ!
ここ数年お米の需要量は毎年10万トン減少、主食用の田んぼはこの10年間で20万ヘクタール(東京ドーム4万2500個分)減少しています。
一度米作りを止めて田んぼがなくなると、環境への影響も出てくる可能性があります。
田んぼは、米を作るための場所だけでなく洪水の防止にも役立っています。
田んぼは、水資源の涵養(かんよう)にも役立っています。
田んぼは、温暖化の緩和にも役立っています。
田んぼは、生物の多様性保護、提供にも役立っています。
田んぼは、文化の伝承にも役立っています。
田んぼは、水質の浄化にも役立っています。
田んぼは、都市と農村の交流の場としても役立っています。
田んぼ”は一度放棄し荒廃してしまうと、再生は不可能ともいわれています。
田んぼが減るとこれらの自然から受ける人間生活の環境が壊れてしまいます。問題の温暖化もさらに進み、人類が住めない環境になる恐れもあるのです。
なぜ『べいめん』が田んぼを救うの?
米農家が米を作れなくなって困るのはまさに私たちです。
そういう危機を感じて、2015年8月に始めたお店が「遠賀べいめん糀(こめのはな)」です。
お米をもっとたくさんの人に食べてもらいたい!そのためにはおいしくて手軽なお米の加工品として「べいめん」を開発しました。
さて、この「べいめん」がどうして米農家を救うのでしょうか?
現在、96%が輸入され、消費されている小麦製品、うどん、ラーメン、パスタ、パン、ケーキなどの年間消費量は600万トンです。
例えば、皆様がこれ等の食品を10回の内、1回分「べいめん」に変えて、食べるだけで、米に置き換えると60万トン消費出来ます。
(「べいめん」1食分=米、約100g)田んぼ10万haが救えます。
(東京ディズニーランドと東京ディズニーシーを合わせて1,000個分、東京ドーム2万1250個分)
私は、全国の米農家様と協力して米のある処「べいめん」在りと、地方の名物料理になるように広げていきたいと考えています。
なにせ、「べいめん」はその土地のお米そのものであり、「土地の味」なら何でも合います。
日本各地にラーメン、うどん、がある様に、ご当地「べいめん」を作って愛される味に育てていきたいと考えています。
「麺料理」を食べたい!と思ったときに、
「べいめん」を食べてもらうだけでこんなに米の消費がアップするのです。
さらに、これが輸出され、海外に広がるとさらに米の消費は増えることになります。
米の消費量を増やす→米農家の収入UP→儲かる農家が増える→継承者も増加→日本の田んぼが守られる‼→日本の国土が救える→日本の故郷が守られるのではないかと思っています。
私は「べいめん」をメニューの一つだけではなく、日本の食文化を守るためにも美味しい「べいめん」をご提供しています。
日本の食の未来のためにも是非ご賞味ください。