身土不二

若かりし頃、西洋料理にあこがれ、フランスパリを夢見ながら修行していました。パリで食したフォアグラ、トリュフ、キャビアといった本物の味は、とても魅力的でしたが、自分の目指したい料理ではないような違和感をずっと感じていました。

その後、イタリアで海の幸、山の幸など、素材を生かす料理を食べた時、体の隅々から喜びを感じ、これこそが私の目指す料理なのだと確信を持ちました。それからイタリアの料理に傾倒し、様々な家庭料理やイタリア各地の伝統料理を学びました。

イタリアにはイタリア料理は存在せず、あるのはイタリア各地の地方料理であったり、さらにはマンマの家庭料理が全ての原点で有ることを学びました。

イタリアの美味しい家庭料理の姿こそが、まさに「身土不二」(地産地消)そのものであることに気づき、この経験が私の料理の礎となっています。

食の過去、現在、未来…

かつて日本においても、母親が毎日地元で採れた新鮮な魚や野菜、肉を近所のお店で買って料理し、みんなで食卓を囲んで家族の絆を育んでいました。

毎日食べても飽きの来ない美味しいお米を主食に、旬の食材を御菜として食べてきましたが、経済が成長するとともに食の産業化が進み、豊食、飽食、個食、孤食、旬の消滅、おふくろ(母親)の味が“袋の味”に変わってきた様に思います。

安価な食材が輸入され便利さ(コンビニエンス)と引き換えに、本来の味わい・食べる豊かさを失ってきた様に感じます。
イタリアでした経験を想うたび、現在の日本の食の崩壊が危機的状況に陥っているのではないかと将来への不安を感じています。

一度失ってしまうとなかなか元に戻すのは困難なことです。
日本の素晴らしい米を中心とした食文化や、地産地消の環境を「べいめん」を通じて守っていきたいと思っています。